あらすじ
国の名は、聖(せい)。
水と交易の都――門都。
古い礼と技を受け継ぐ都――栄都。
厳しい山と雪の中で生きる都――高都。
同じ国にありながら、三つの都は、それぞれ違うやり方で人々の暮らしを守ってきた。
その三都を束ねていた聖宮から、あるとき返事が届かなくなる。
検定官が来ない。
書状が返らない。
街道をつなぐ仕組みが止まる。
そんな中、三十年前に聖帝が残した盟約が開かれた。
――聖帝と三都を束ねる者が、ともに不在となったとき。
三都はそれぞれ一人を他都へ預け、互いの盟を証する。
期間は、二巡の春を越えるまで。
門都から栄都へ。
栄都から高都へ。
高都から門都へ。
それぞれの都から、一人が旅立つ。
なぜ、聖帝は三十年前にこの盟約を残したのか。
そして、聖宮では何が起きているのか。
異なる土地、異なる価値観、異なる方法で生きてきた人々が、少しずつ互いを知り、自分たちのやり方で国の異変に向き合っていく。
これは、聖という一つの国に生きる人々を描く、三都の群像譚。
【主な登場人物】
◆ 門都――理(り)
理玄(り・げん)
門都を治める「理冠」。静かで口数は少ないが、最後に決め、その責任を引き受ける人。
理翠(り・すい)
記録と理屈を積み重ね、物事の仕組みを読み解く。考えるだけでは足りないと、盟約に従い栄都へ向かう。
理桜(り・おう)
市場を歩き、人の顔と声から言葉にならないものを拾う。人と人との間に立つことのできる、門都のもう一つの力。
◆ 栄都――儀(ぎ)
儀臙(ぎ・えん)
栄都を治める「儀珠」。古い礼と秩序を重んじながら、その本来の意味を知る人。
儀蒼(ぎ・そう)
技と美に妥協しない職人気質。無愛想で容赦がないが、人や物の小さな異変を見逃さない。
儀夕(ぎ・せき)
人の懐へ自然に入り込む柔らかさを持つ。かつて自分も「よそ者」だった経験から、自ら高都へ行くことを選ぶ。
◆ 高都――仁(じん)
仁陽(じん・よう)
高都を治める「仁扇」。言葉より先に体が動く実務の人。都とそこに暮らす者を守ることを何より優先する。
仁皚(じん・がい)
事実を分け、記録し、曖昧なままにしない参謀役。愛想はないが、必要なことは誰より細かく見ている。
仁菖(じん・しょう)
人と人の間に入り、角を取ってきた調整役。盟約によって門都へ向かい、自分自身の役割とも向き合っていく。
そして三都から離れた聖宮には、去らなかった者たちがいる。
命じる者がいない。
印を押す者もいない。
それでも、書状は届き続ける。
三都がそれぞれに動き始めたとき、止まっていた聖宮もまた、静かに動き始める。