あらすじ
ディーリングルームの大きな電光掲示板に、刻一刻と変化する数値の束が鮮烈な明滅を繰り返していた。
そこに映し出されているのは、単なる記号の羅列ではない。日本という国家の心臓部を流れる血液の温度――すなわち、「金利」と「国債価格」の息遣いそのものだった。
シニアトレーダーは、冷めかけたコーヒーカップをデスクに置くと、目の前で固唾を飲んでいる新米のジュニアトレーダーをちらりと見据えた。
「おい、基本のキをもう一度お前に叩き込んでおく必要があるようだな」
トレーダーは低く静かな声で言った。
「金融市場の素人どもは、ニュースで『金利が上がった、下がった』と聞くたびに、まるで金利という数値が直接売買されているかのような錯覚に陥る。だが、それは根本的な勘違いだ。市場で日々、激しく売買されているのは金利そのものではない。私たちが手にする対象は、常に『国債の売買価格』、そしてその先物価格に他ならない」
ジュニアトレーダーは、メモ帳を構えながら緊張した面持ちでうなずいた。
「はい……金利と国債価格の関係、そしてそれがオプションのプットとコールにどう直結するのか、頭では分かっているつもりですが、実際の現場の動きとしてはどう連動しているのでしょうか?」