あらすじ

「死人に税は課せません。——ここから先は、私の台帳の内側です」 王都主計局の監察官レティシアは、数字と事実しか信じない冷徹な監査の実務屋。 貴族たちの軍需物資横領を告発しようとした結果、上層部に証拠を握りつぶされ、三十年前に死病で全滅したとされる禁足地「ノイラート郷」の廃村登記を命じられる。護衛もつけられぬ事実上の追放処分だった。 地図から白く塗り潰された「死の谷」に降り立ったレティシア。 しかし、そこにいたのは怨霊などではなく、不当に戸籍を奪われ、毒水と飢えに喘ぎながら息を潜めていた百余名の流刑囚や脱走兵たちだった。 「死人は息を吐きませんし、その外套を修繕する必要もありません。——私の前で、巨大な計算違いが起きています」 首元に抜き身の刃を突きつけてきた元近衛隊長の頭目キリアンに対し、レティシアが取り出したのは武器ではなく、白紙の台帳と鉄ペン。 彼女は奇跡の力に頼ることなく、水利の是正、床下暖房(オンドル)の敷設、未利用鉱物の精錬といった緻密な実務によって、死者とされた者たちの生活基盤を淡々と、しかし劇的に再構築していく。 やがて「死病の谷」は、誰も飢えず、誰も侵すことのできない堅牢な自治郷へと変貌を遂げる。 そして、かつて彼女を捨てた王都がその価値に気づき縋り付いてきた時、元近衛の獣は剣を抜き、冷徹な監察官は冷ややかに告げるのだった。 「お引き取りを。ここはすでに、独立領として登記完了しております」

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小説を読もう2026/10/07
  • 現在の作品灰谷の墓守 〜王都を追われた監査官、呪われた禁足地で「死者の村」を登記する〜