あらすじ
財務省の地下資料室に響く足音は、まるで歴史の深淵へと吸い込まれていくかのように重たかった。
蛍光灯の低いハムノイズの中、一人のキャリア官僚が、国家の資産運用政策をまとめた分厚い法規集と、民間の投資信託が描き出す複雑なリターンのグラフを並べて見つめていた。
「なぁ……」
背後から、経済政策チームの補佐官が疲労の色をにじませた声を投げかける。
「世間の個人投資家たちは、自分たちがNISA口座を使ってネット証券でインデックスファンドを買い付けているとき、どこかで『国がこの資産形成を直接バックアップしてくれている』という安心感を抱いている。だが、実際のところ、国家はこの個人の投資に対してどこまで踏み込んでいるのだろうか? もしかしたら、いつの日かこの私的な運用に対しても、直接的な補助金や手厚い助成の手が差し伸べられる日が来るのではないかと期待している者さえいる」
官僚は冷ややかに鼻で笑い、手元の法規集の一節をペン先で叩いた。
「甘い幻想だな。そんなお伽話がまかり通る余地は、日本国の法律と財政の仕組みには一ミリたりとも存在しない」
男は椅子に深く腰掛け、国家と金融を隔てる「制度の防壁」の正体について語り始めた。