あらすじ
前田樹は、あるライトノベルを何ヶ月も読み続けていた。
文章は完璧。世界観もよく練られていて、登場人物たちの関係性まで丁寧に描かれている。
それなのに、どうしても好きになれないものが一つだけあった。
主人公だ。
何かあるたびに文句を言い、人のせいにする。自分の非を認めようともせず、周囲に迷惑をかけてばかりいる。
しかも、続編が出るたびにますます酷くなっていった。
まるで、主人公を踏み台にして脇役を引き立てるような物語だ。
ついに我慢の限界を迎えた樹は、こう吐き捨てた。
「俺が主人公だったら、こいつよりもっと上手くやれるのに」
……その発言は、少しばかり不運だったのかもしれない。
その直後、樹はそのライトノベルの世界へと転移した。
ただし、そこには本来いるはずの主人公が存在しなかった。
樹は、物語の続きを知っている。
これから何が起こるのかも、ある程度は分かっている。
これなら、自分はもっと上手くやれる。
そう思っていた。
けれど――
この世界は、本の中にある世界ではなかった。