あらすじ
王都交易院で二十二年、「人が何を欲しがるか」を読み続けてきたアンネア・フロント、四十四歳。
娘が家を出た翌朝、彼女は仕事を辞めた。
人の欲しいものは分かる。
けれど、自分の欲しいものだけが分からない。
王都を離れたアンネアがリゼルで見つけたのは、七年空いた古い店と、一脚の青い椅子だった。
「好きだから」
売れそうだからでも、誰かに勧められたからでもない。
自分のために選んだ、最初のものだった。
そこから「好きなものしか置かない」小さな店が始まる。
濃紺に銀糸の刺繍布。
形の揃わない白いカップ。
夕方にだけ淡く光る花。
甘すぎない胡桃菓子。
けれど、好きなものは、好きなだけでは売れない。
売れ残る。仕入れすぎる。作り手に無理をさせる。
土地を離れると性質が変わり、売りたくても売れない品まである。
隣にいるのは、商業組合のヨハン。
正しいことばかり言う、眼鏡を何本も持った大柄な男だ。
値札を付け、売れ残りを抱え、誰かの「好き」に出会いながら、
アンネアは少しずつ、自分の店をつくっていく。
四十四歳から始まる、店と商売と再出発の異世界ファンタジー。