あらすじ
桐生蓮司と付き合って、八年になる。
そのうち三年を費やして、私は彼のために一本の舞台脚本を書いた。『月影茶屋』というその作品は、汐ヶ浦市の百席にも満たない小劇場で燻っていた蓮司を、テレビドラマや映画の世界へ連れ出した。
いつか彼が俳優として賞を取り、その隣に私がいる。
そんな未来を、疑ったことはなかった。
けれど、花とカメラに囲まれた蓮司の隣に立っていたのは、私ではなく妹の藤崎美羽だった。
披露宴では、私のことを面白半分に囁く声があちこちから聞こえた。蓮司は一度も止めなかった。それどころか、私が身に覚えのない妊娠をした女だと、自分の口で話した。
きっかけは四か月前だった。
地方での仕事を終えて帰ってきた蓮司が、鍵をかけていた私の引き出しから一枚の産婦人科の検査結果を見つけた。
名前は、藤崎千景。
妊娠反応は陽性。
あの紙が、全部の始まりだった。
八年の恋も、美羽も、紗和の死も、そのあと私に起きたことも、気づかないうちに一つの場所へ追い込まれていった。
ただ、蓮司まであそこまで壊れることになるなんて、その頃の私はまだ知らなかった。