あらすじ
十七歳の夏、好きだった人にキスをして、「忘れて」と告げた。
十一年後。母を亡くした栞は、遺された洋装店を片づけるため、海辺の町へ帰ってくる。
向かいの写真館にいたのは、あの夏、返事を聞かずに背を向けた千紗だった。
仕立てかけのコート。持ち主を待つ制服。写真の中の、知らない母の笑顔。
栞が町を離れていたあいだ、千紗は母と親しく過ごしていた。取り戻せない時間に触れるたび、彼女に聞きたいことも、触れたい気持ちも増えていく。
けれど、栞には東京の暮らしがあり、千紗にはこの町で続けてきた日々がある。
あの日、聞けなかった返事を、今度は最後まで聞きたい。
喪失のあとに残る暮らしと、もう一度手を伸ばす恋の物語