あらすじ
会社が燃えた。
だが、消防車は来なかった。
火の熱も、匂いもしなかった。
IT企業に勤める高橋としあきは、それを「そういうこともある」と処理した。
彼の仕事は、生成AIの出力を検証し、その“嘘”を見つけること。
だから、会議に一人多く参加していても。
会議が終わる前に議事録が完成していても。
存在しない部署が経費申請を承認していても。
すべて、不具合として処理できた。
そんなある日、人事部から一通のメールが届く。
『本社へお越しください』
指定された場所は、静岡県沼津市の山中。
そこに建っていたのは、四十七のフロアを持つ巨大な「本社」だった。
総務部。
人事部。
未回収債権管理部。
責任所在特定部。
評価再検討部――。
そして、一度足を踏み入れた社員たちは、ひとり、またひとりと減っていく。
それでも高橋としあきは考える。
「……システムの不整合ですな」
これは異常なのか。
それとも、自分の認識のほうが間違っているのか。
合理化し、切り捨て、忘れることで生きてきた男が、
“処理できなかったもの”と向き合うための、奇妙な出社が始まる。