あらすじ
残業を頼まれるのは、必要とされている証拠だ。
そう信じて働き続ける営業事務員は、取引先からは「営業事務の人」としか呼ばれない、都合のいい人だった。
三十歳の誕生日を迎えた残業帰りの夜、公園で現れた口の悪い妖精が告げる。
「あなたは童貞を貫いたので、今日から魔法使いです」
魔法の触媒は、コンビニで店員からもらう割り箸。
課されたのは一か月の試用期間と、「人の役に立てばよろしいのでは?」という一言だけ。
彼は会社の仕事と同じ調子で割り箸を溜め込み、頼まれてもいない人助けに首を突っ込んでいく。
後輩には「先輩」。女子高生には「オジサン」。深夜のコンビニの店員には「師匠」。店先で煙草をくわえる女には「おにいさん」。
名前では呼ばれないまま、呼び名だけが増えていく。
空回りばかりの人助けの先で、彼は「頼まれる」ことと「求められる」ことの違いを知るのか。
「お箸は、おいくつおつけしますか?」
一膳で足りていた男の、一か月の話。