あらすじ
木星の軌道上に浮かぶ観測ステーション「千曲」。
そこに生き残った人類最後の古文書修復官・蓮見の前に、宇宙の物理法則を統べる高次元の超越知性――「神」が現れる。
神は、蓮見が和紙に記したわずか三十一文字の和歌を「低密度で非論理的な情報プロトコル」と切り捨てた。だが、そこに込められた“有限の命ゆえの美”を理解できない神は、自らの全知全能を証明するため、恐るべき試みに着手する。
木星の衛星群を砕き、土星の環を呑み込み、太陽系の構成物質を極微の量子記憶素子へと再構成していく神。五・七・五・七・七が織りなすあらゆる順列組み合わせを物理空間に実体化させ、太陽系を光り輝く巨大な言葉の星雲――「詩雲」へと作り変えた。
そこには、宇宙に存在しうるすべての詩歌が眠っている。
しかし、すべてを書き尽くした絶対者の前に、決して解くことのできない「美の判定」という深淵が口を開けていた。