あらすじ
「戦えない荷揚げ屋は、配信に映るな」
S級配信者・皇剛牙の生配信で、荷揚げ屋の綱城朔は日当を半額にされ、装備を没収されて攻略隊を追い出された。
その五分後、崩落した縦穴で、元攻略隊の新人三人が一本の安全索に吊られて揺れていた。隊長は撤退し、救助隊の到着は四十一分後。索は岩角に擦れ、残りは九十秒。
朔は視聴者からロープを借り、鉄骨を叩いて支点を選び、三種類の結びで三人を新しいロープへ乗り換えさせる。最後に引き上げた少女が言った。「隊長が、先に安全索を切ったんです」。
朔は誰も責めない。刃物の断面と擦れた断面を並べて見せるだけだ。結び方も荷重の計算も、全部公開する。誰でも同じことができるように。
救助の前には必ず聞く。上がるか、待つか。止めたくなったら、この握り玉を落とせばいい。
一方、救助を「映えない」と切り捨てた元隊長は、スポンサーと登録者と攻略権を、ひとつずつ失っていく。
そして五年前、閉鎖区画「沈み坑」へ要救助者を迎えに降りたまま帰らなかった兄の救難ビーコンが、深夜二時十三分、ふたたび灯りはじめた。
魔法なし、スキルなし、戦闘なし。あるのは一本のロープと、確かめられる手順と、本人に選ばせる誠実さだけ。