あらすじ
亡国セイランの姫シュリンは、十七歳。国を攻め落としたゴウ将軍の花嫁として、夕暮れの峠を輿で越えていた。
その行列を、魔物が襲う。
兵が逃げまどうなか、昼寝ばかりしていた無精ひげの用心棒が、剣を抜いた。腕に黒い縞が走り、頭に虎の耳が立ち――男は、一頭の大きな虎になった。
その虎の前に出たのは、花嫁だった。
夜が明けて、男は名のった。
「レツ。ただのレツ。用心棒のレツだ」
シュリンは帯の小袋から、金のかんざしを差しだした。
「雇うわ。前金よ」
「俺は、あれになるんだぞ。次は、あんたを食うかもしれねえ」
「そのときは、冠を外してからにして」
追っ手の角笛、二人の首にかかった賞金、宿場の質屋、毒の矢を持つ猟師。血を流すたびに虎に近づき、虎から戻るのが遅くなっていく男と、泣き言より先に値切る姫の逃避行がはじまる。
九年前の宴の夜、幼い姫のために、言葉を探してくれた若い武官がいた。
虎になる用心棒と、男前な亡国の花嫁。助けて、助けられて、対等に戦う、王道の中華風ファンタジー。全八話。