あらすじ
■□■ストーリー■□■
夏——
休みを使った生まれ故郷への里帰り。
ごく当たり前であろうそれは、しかし俺にとっては少しだけ事情が異なってくる。
俺には、ここに住んでいた頃の記憶がない。
まぁ大した事じゃない。交通事故で記憶を失ったなんていう、掃いて捨てるほどによくある話だ。
だから里帰りというよりもちょっとした小旅行気分でやってきたんだけど……。
けっこう歩いたのに、今のところ誰ともすれ違ってないぞ。やけに静かというか、人の気配みたいなのを感じないし……。
「お、あれは……」
学園だ。
夏休み中のはずだけど、校門は開いてるみたいだな。
「はぁ、助かった……」
門が開いてるってことは誰かしら教員がいるはずだし、どこか泊まれる場所を聞いて……って待てよ。
普通に考えて関係者以外立ち入り禁止だよな。
「い、いやいや、そうも言ってられないって」
こっちにも事情があるんだし大丈夫……か?
「……お、お邪魔しま〜す……えぇっと、職員室ってどこに——」
「……んぅ……ん……くぅ……すぅ……」
——その光景を見た瞬間、思考が固まった。
木にもたれかかり、可愛らしく寝息を漏らす少女。
西日に照らされた面立ちにはどこかあどけなさが残っており、健康的な肌色によく似合っている。
そのくせ汗の滲んだその身体のラインは僅かな女らしさも含んでおり、独特の色気を醸しだしていて……。
立派な女性へと変わっていく長い階段——その一段目にそっと足をかけたような、そんな少女がそこにいた。