あらすじ
人は死ぬとき、瞳に一瞬だけ、その人の色が灯る。
海辺の町・宵ヶ浦の送り染め師は、その「最期の色」を布に移し、遺された家族に渡す。一年後、家族はその布を灯籠にして海へ流し、死者を送る。
送り染め師のかさねは、町いちばんの腕を持ち、客の前で一度も泣いたことがない。
けれど一年前、父の最期の色だけは、どうしても布に出なかった。真っ白なままの形見布を、かさねは誰にも見せずに隠してきた。
布流しの七日前。叔父が町じゅうの前で箱を開けさせ、言い放つ。「兄貴は色を売って死んだ抜け人だ」。
父の名と店を守るため、かさねは父の最後の半年を辿りはじめる。
見つかったのは、毎晩の日付と「碧へ」とだけ書かれた、父の帳面だった――。
死んだ父が娘に遺したものと、泣けなかった娘の、一年遅れの見送りの話。