あらすじ

明治二十三年、浅草。 「死んだ人の瞳には、最後に見た光景が焼きつく」――西洋から届いたその新説に、新聞も警察も沸き立っていた。 写真館を継いだ露木玉緒は、変死体の顔を撮る「死に顔写真師」。 白い手袋の指で亡骸の瞼をそっと開き、拡大鏡をのぞき込み、涙ぐみながら告げる。 「……見えます。この方が最後に見たのは、あなたの顔です」 けれど、網膜に犯人の顔など写らない。 それを世界でいちばんよく知っているのは、玉緒自身だった。 父はその学説を信じて無実の男を絞首台に送り、失意のうちに世を去ったのだから。 だから彼女は、同じ嘘で犯人を撮る。 像が消えるまで、猶予は半日。存在しない写真を突きつけられると、人の顔は真実よりも雄弁になる。怯える者、かばう者、安堵する者。 泣き虫で、頼りなくて、死者の前では手が震える写真師。その白い手袋が外れるとき、完全犯罪は露見する。 ――ただ、ひとりだけ。嘘の写真を前にしても、顔色ひとつ変えない男がいた。

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小説を読もう2026/10/06
  • 現在の作品『その瞳に映っているのは、あなたです』 〜存在しない網膜写真で、明治の死に顔写真師は犯人を現像します〜