あらすじ
――破れば即死の掟。舌を抜かれて死んだ、妹。声を殺す村で、青年は恐怖の底に沈みながら、伝えられなかった想いへと近づいていく。叫べない、泣けない、閉鎖村の民俗ホラー。
妹・凪の訃報を受け、大学生の槙野湊は、山口の海沿いにある故郷・淵ヶ迫へ帰る。
凪は川で溺死した――そう説明された。だが、遺体の口の中には、あるはずの舌が根元から消えていた。
事故だと言い張る村人たちは、なぜか誰も湊の目を見ない。井戸には蓋がされ、鏡は伏せられ、夜になると、村じゅうの人間が口を固く閉ざす。そして湊は、妹の通夜の晩、闇の中で自分の口元だけを見つめる黄色い眼と出会う。
「舌を出すな。口を大きく開けるな」
幼馴染で巫女見習いの瀬戸環は、掟を破れば淵の怪異〈エンコ〉に水底へ引かれると告げた。半信半疑の湊の目の前で、村を出ようとしていた若者が禁忌を笑い、浅い川へ引きずり込まれる。残ったのは、流れていく一本の舌だけだった。
凪は死ぬ前、村の水難事故と、神社で行われる「奉納相撲」を調べていた。残された手帳、破られた村誌、書き換えられた過去帳。手がかりを追うほど、湊の周囲から証言者が消えていく。
妹はなぜ殺されたのか。
誰が、何を隠しているのか。
そして淵にいる、杖をつく飢えた怪異と、水面に現れる無言の女は、いったい何者なのか。
叫べば居場所を知られ、泣けば次の犠牲者になる村で、湊は声を失う前に真相へ辿り着けるのか。