あらすじ
婚約を解消するという男が差し出した鍵には、蜘蛛の巣がついていた。
慰謝料は、八年前に閉館した廃劇場。窓は割れ、屋根は漏り、舞台の吊り綱は今にも切れそう。
けれど子爵令嬢リディアは、困ったことに、笑いそうになる。
――私、前世は舞台監督でした。
神様の特別な技能はない。使える蓄えは金貨三十六枚。
役者を集め、床を直し、魔法の照明を借り、小さな二人芝居を作る。
初めて主役を演じる女優、広場育ちの喜劇役者、頑固な大工、光に夢中の見習い。
そして「切符を買う」と言ったのは、商人たちに恐れられる冷徹公爵だった。
悪役令嬢という噂で切符は売れず、知っているつもりの仕事でも失敗する。
それでも、一場ずつ稽古を重ねた劇場に、八年ぶりの拍手が戻った。
いつしかリディアは、仕事のない日曜日にも、公爵と会いたくなっていく。
王都の演劇祭が決まり、元婚約者が選んだ歌姫も、一人の働く女性として劇場へ来た。
ところが公演前日、主演女優の声が出なくなる。
用意していた代役に幕を託し、舞台を守るため、リディアは袖へ立つ。
廃劇場を受け取った転生令嬢が、自分の仕事と恋を選ぶ物語。
公演の決着、元婚約者との関係、二人の一年後まで描く、全二十二話の完結作。