あらすじ
「リーゼロッテ、君との婚約を破棄する。加えて、星詠みの任も解く」
大広間で高らかに宣言した王太子殿下に、わたくしがまず行ったのは――立会人の数を数えることでした。
星暦二百十二年、霜月三日、午後四刻。星詠み職解任の通告を受領。通告者、王太子セヴェリン・ルシエラ殿下。立会十一名。
帳面に記録し、引き継ぎ書類九冊をうやうやしく差し出します。盟約十二条の逐条解説、過去四千三百八十夜分の観測記録要約、署名手順書、年間の儀式日程表。
「そんな紙切れ、必要ない」
――受領拒否。かしこまりました。そのように記録いたします。
「星様の声が聞こえる」と微笑む自称聖女のミレーユ嬢は、今夜から心を込めて祈ると言いました。けれど、祈りは契約行為ではございません。署名です。
二百十二年間、ただの一度もワイバーンが王都に現れなかったのは、なぜだとお思いですか?
前世で三十八年、書類と期日に殉じたわたくしが培ったのは、心でも奇跡でもなく、ただ「記録」という武器でした。辞令なき任命、履行されない盟約、空白の署名欄。積み上がる不履行は、やがて誰にも止められない請求書へと変わります。
十二年分――いいえ、二百十二年分の星詠み代、きっちり請求させていただきますね?
そして帳面の最奥、初代星詠みの最終頁に残されていた署名は、紛れもなく「わたくし」の筆跡でした。
静かに、淡々と、そして容赦なく。書式こそが命綱。実務派令嬢の痛快ざまぁ&星との盟約ファンタジー、開幕です。