あらすじ
酸性雨がネオンを滲ませるメガロポリス・第三階層。神坂 仁(かみさか じん)は、うらぶれたスラムで「なんでも屋」を営む青年だ。裏通りで絶望する人々の神経素子(ニューロジャック)にアクセスし、わずかなクレジットと引き換えに悲惨な記憶のリンクを断ち切る(ソフトデリートする)のが彼の表の顔だった。
だが、夜の暗がりで見せるもう一つの顔は、都市インフラを完全統治する『世界OS』のデバッグ権限を持ち、標的の存在そのものを物理的・社会的に完全消去(ハードデリート)するシステム公認の掃除屋「0(ゼロ)」。
網膜に直接展開される極彩色のUIレイヤーを通し、空間ごと標的を隔離空間(トレイ)へドラッグし、次元の淵へスワイプする。世界は自動パッチによって「彼らは最初から存在しなかった」ように辻褄を合わせるが、行き場を失った消去者たちの断末魔や未練は、メモリリーク(ゴミデータ)として仁の生体脳にこびりつき、静かに彼の自我を焼き焦がしていた。
ある夜、最上位権限から強制タスクが下る。標的は、雨の路地裏に佇む一人の少女・リア。
だが、彼女をスワイプしようとした仁の指先は、真っ赤な『Read-Only(読み取り専用)』のアクセス拒否エラーに弾かれる。彼女は、幾度も改竄とアップデートを繰り返してきたこの欺瞞の都市において、唯一残された「書き換え前のオリジナルデータ(バグ)」だったのだ。
リアを物理フォーマットすべく、現実の物理法則すら自在に「上書き(オーバーライト)」する統治局の最高位スワイパーが襲い掛かる。冷たい雨が降る鋼鉄の森を逃げる中、仁はリアの持つアナログな温もりに、失いかけていた「人間らしさ」を取り戻していく。
「世界がお前をバグと呼ぶなら、俺がこのふざけたシステムを落とす」
仁は、自身の脳が焼き切れる覚悟で、電脳の底に溜め込み続けた「消された者たちの怨念(キャッシュ)」を全解放し、絶対的なシステムへの反逆のコマンドを叩き込む。