あらすじ
久世瑠璃、二十九歳。
葬儀社で働く彼女は、遺体を送り出す仕事よりも、生きている人間が死者について語る言葉に興味を持っていた。
「優しい人でした」
「家族思いの父でした」
「仕事一筋の立派な人でした」
葬儀では、誰もが故人を褒める。
けれど瑠璃は知っている。
人は、死者について語るときほど、平気で嘘をつく。
ある雨の夜、元検事・御堂雅臣の葬儀が行われることになった。
死因は自宅階段からの転落。警察は事故死として処理している。
ところが、瑠璃は通夜の受付でいくつもの違和感に気づく。
妻と息子で故人の酒癖に関する証言が食い違っている。
故人が嫌っていたはずの写真が祭壇に飾られている。
そして、弔辞を読む予定だった親友が突然姿を消した。
そんな瑠璃のもとに、一枚の紙が差し出される。
『父を殺した人が、この葬儀にいる』
しかし瑠璃は、その紙を見ても驚かなかった。
「……困りましたね」
彼女は小さく笑った。
「殺した人を探すより、どうして皆さんが同じ人を違う人物として覚えているのか。そちらのほうが気になります」
死者は、もう何も話さない。
だからこそ、残された人間の言葉だけが手がかりになる。
葬儀社勤務の女性・久世瑠璃が、誰も気づかなかった「死者の人生の綻び」を拾い上げる、本格現代ミステリー。