あらすじ
十五歳で成人したエルドは、河口都市セルネアで父とともに、魔法道具に使う触媒材を加工している。
彼には昔から、ときどきそこにないものが見えた。
壊れていないものに重なる、壊れた姿。
何もない場所に残る、存在しない痕跡。
見えた通りのことが実際に起きることもあれば、何も起きないまま消えることもある。その正体も、見える条件も、エルド自身には分からない。
ある日、工房で見えた壊れた姿の通りに留め具が折れる。そこから続いた異変を追ううち、エルドは古い鉱山の事故へ関わることになる。
痕跡が見えても、何が起きるのかも、どう防げばいいのかも分かるわけではない。それでも、危険に気づいていたのに何もしないまま終わるのは嫌だった。
エルドは、自分に足りないものを身につけていく。工房で培った細かな魔力操作を磨き、剣を覚え、ただ見えていただけの痕跡も、判断や戦いの材料に変えていく。
やがてセルネアを離れれば、知らないものはさらに増える。土地が変われば、常識も、魔法の使われ方も、危険の形も違う。セルネアで通じた知識だけでは判断できない場面もある。自分より強い相手には、危険が見えていても手が届かない。
エルドは、その土地を知る者に聞き、ともに動く者の力を借り、自分でも確かめていく。知識が増えれば、痕跡から拾えるものも増える。剣や魔法を身につければ、見えたあとに選べる手段も変わっていく。
旅を重ねるほど、エルドの知る世界は広がっていく。
けれど、分かることが増えるほど、ひとつだけ消えない疑問が残る。
――自分が見ているものは、本当に「これから起きること」なのか。