あらすじ
深夜、とある歩道橋。人けはなく、時おり下を走り抜ける車の走行音と階段を上がる足音だけが、しんと静まり返った夜気の中に響いていた。道路脇に立つ街灯は長年の風雨にさらされカバーが曇っているらしく光が鈍く、橋の中央まで届かず、濃い影が落ちている。大型トラックが下の道路を通り過ぎるたびに、歩道橋全体がびりびりと震えた。
彼が階段を上がりきり、橋の中ほどに差しかかったときだった。思わず「あっ」と声を上げ、次の瞬間、無意識のうちに駆け出していた。
欄干の向こうへ、男が大きく身を乗り出していたのだ。
「あ、あの!」
彼が慌てて声をかけたちょうどそのとき、男は欄干を乗り越え、その先の縁に立った。ひどく狭く、足先を横に向け、欄干に張り付くようにして立つのがやっとというところ。それなりの高さがあり、このまま転落すれば骨折は免れないだろうし、タイミング悪く車が通りかかれば命に関わることは間違いない。
彼は咄嗟に手を伸ばし、男の腕を掴んだ。