あらすじ
二十七階層単独踏破、身長百九十。最強の探索者【単騎】久我迅が、ある日突然トんだ。何の告知もなく、住所も口座も畳んで、失踪者として。
一年半、推しの背中だけを撮り続けてきた追っかけ配信者の私は、四ヶ月後、ゲート裏の潰れかけた飯屋に流れ着く。
小柄な女店主が、推しとまったく同じ角度で右肩を回した。
……いや、ないから。推しは大男だから。
一時間百円のコンセント。旨すぎるカレー。撮影料は一時間五百円。
その日から、私は店主の背中を撮り続けている。
二週間後。下請けで同行したクランの潜行で、私のドローンは事故を撮った。
二人が死んだ。責任を押しつけられたのは、討伐数ゼロ・撤退勧告百二十一回の支援職、白瀬さんだった。
クランは配信を消した。手元に残った映像を握りしめて、私は飯屋の店主に相談した。
店主は、白瀬さんを安く雇った。
それから、業界に「使えない」と切り捨てられた人ばかりを拾ってくる。倉庫に飛ばされた査定係。工房を追われた整備士。泥棒呼ばわりされた元前衛。
彼らが出す「あと何回潜れるか」を書いた一枚三百円の紙は、やがて保険の料率を変え、最大手クランを交渉の席に着かせる。
そして、あの事故の二人の凍結保存が打ち切られることになった。残り三十日。
二人を生き返らせる方法は一つ。誰も下りられなくなった二十五階層まで、遺体を担いで往復することだ。
先頭に立てる人間は、業界に一人もいない――はずだった。
――店主の背中が推しに似すぎているのは、たぶん気のせいです。