あらすじ
太古より、その圧倒的な力と知識によって魔界を統べてきた魔王。
魔物を封じ、国境を守り、貴族同士の争いを収め、交易を整え、民が平穏に暮らせる国を作り上げてきた。
しかしある日、魔王の弟が貴族たちを味方につけ、クーデターを起こす。
「兄上の時代は終わった。これからは私が魔界を導く!」
魔王ならば反乱軍を力でねじ伏せることなど容易だった。
だが、内乱になれば傷つくのは魔界の民である。
魔王はしばらく考えた末、あっさりと王座を明け渡した。
「お前たちのことを思ってやってきたのですが……もう知りません!!」
こうして魔王は、2人の側近と共に人間界へ追放された。
ところが本人は、それほど落ち込んでいなかった。
「心配は無用です。実は私、以前から商人にも興味がありました」
人間界では魔王としての正体を隠し、ただの銀髪の商人として新生活を始める。
魔界では当たり前だった素材、魔法、保存技術、薬草、香辛料。
それらは人間界では、どれも常識を覆す商品ばかりだった。
小さな露店から始まった商売は瞬く間に評判となり、店を構え、商会を作り、やがて国さえ無視できない規模へと成長していく。
さらに魔王は、人間界だけでは商品を確保できないという問題に直面する。
「なるほど。ならば魔界から輸入すればいいのですね」
追放された魔界へ戻る方法を探しながら、魔王は人間界と魔界を結ぶ新たな交易路を作り始める。
一方その頃、魔界では少しずつ歯車が狂い始めていた。
物流の遅延、物価の上昇、貴族同士の対立、外交問題、治安の悪化。
さらに魔王の力によって維持されていた封印までもが、少しずつ崩れ始める。
「なぜだ!? なぜ私が魔王になってから、こんなことばかり起きる!」
弟はまだ知らなかった。
兄がただ玉座に座っていたのではなく、魔界という巨大な国を誰にも気づかれないところで支え続けていたことを。
やがて弟は、ついに決断する。
「兄を探せ! 今すぐ連れ戻すんだ!」
しかし、その頃にはもう遅かった。
「帰ってきてください、魔王様!」
「嫌です。追放されたので」
これは魔界を追放された最強の魔王が、人間界で商人として成り上がり、やがて世界一の商人を目指す物語。
そして、兄を追放した弟が、少しずつすべてを失っていく物語である。