あらすじ
【毎日更新】【全45話・完結保証】
「若様、お待ちしておりました」
振り返った。誰もいない。
ついでに、さっきまで歩いてきた通路もなかった。
高校に入って二週間。片耳のイヤホンを探しに来ただけなのに、新宿の地下に木の改札が立っていた。
「ここ、何線ですか」
「列車は通りません」
だったら、なんで駅員の格好をしてるんだ。
駅員は僕を「若様」と呼び、教えてもいない名前を知っていた。
水路の足場。上がってくる黒い水。水の底に、丸い窓ほどの目。
足をつかまれた。
引きずり上げてくれたのは、灰色の獣だった。
――うちの老犬、がじゅまる。家の玄関で寝ているはずのやつが、狼の姿で。
「お帰りなさいませ」
「帰れてないです」
やっと家に帰ると、脈がなかった。
鏡に映した指が、半分透けている。
翌日、里の執事は言った。お身体はお戻しできます。八つの門を回っていただければ。
執事は僕に制服を着せたがる。鴉は自分で名前をつける。銀の蛇は襟元に住みついて「こちらが正解です」と言う。
治るならやる。ただし、学校には行く。出席日数というものがある。
ばあちゃんのごはんを食べて、学校に行って、犬の散歩をする。
そんな毎日を手放す気のない僕を、あやかしたちは丁重に迎える。
けれど、彼らが「若様」に何を望んでいるのかを、僕はまだ知らなかった。
「餌って、僕のこと?」
恋愛要素なし。高校生のツッコミと、一筋縄ではいかない人外たちとの掛け合いを楽しむ、ライト文芸寄りの現代ファンタジーです。
少し可笑しく、ときどき怖いあやかしの世界。家族との日常や、人と人ならざるものとの関係を大切に描く物語がお好きな方へ。
※犬は、最後まで元気です。