あらすじ
八歳の夏、古びた蕎麦屋で「僕」は一枚の奇妙なポスターに出会った。白い浴槽に横たわる、人魚。その艶めいた姿と「坊や」という囁きは、二十年近く経った今も、記憶の底から消えない。
他人の感情をうまく読み取れず、現実と幻想の狭間を漂うように生きてきた僕。大学二年の冬、カフェで一冊の小説を読む女性と出会ったことから、止まっていた時間が静かに動き始める。
幼い日の人魚、繰り返される幻想、そして現実に現れたひとりの女性。これは、他者と結びつくことのできなかった青年が、記憶と欲望の深みに触れていく物語。