あらすじ
子どもの頃に住んでいた家を、あなたは覚えているだろうか。
古い畳の匂い。 夜中に軋む柱。 誰もいない部屋から聞こえる小さな物音。 昼間なら何でもないものが、夜になると別のものに見えてしまう。
私の実家は、築百年を越える古い家だった。
今から思えば、あの家には昔から「何か」がいたのかもしれない。
けれど、それを怖いものだと思うようになったのは、もっと後のことだった。
子どもだった私は、見えているものを、そのまま受け入れていた。
怖いものも。 可笑しなものも。 寂しい夜に、そっと近づいてくる気配も。
そして三十年が過ぎた。
私は今、自宅の襖を眺めながら、この話を書いている。
あの家の「何か」は私を見守ってくれてた。
少なくとも、私はそう思っている。
祖父から一つだけ、固く口止めされていたことがある。
だから、これは怪談ではない。
昔の家で起きたことを、ただ書き記しただけだ。
……そう。
私は、まだ誰にも話してはいない。