あらすじ
三十代前半の香菜子は、保険会社で働きながら、夜は小さなスナック「月灯り」で働いていた。
昼間は笑顔で人と接し、夜は客のグラスを傾けながら笑う。
一見すれば、ごく普通の生活。
けれど、香菜子には誰にも言えない理由があった。
――家に帰るのが、怖い。
恋人の修司は、香菜子の仕事や交友関係、帰宅時間を細かく気にするようになっていた。
「今どこ?」
たった四文字のメッセージを見るだけで、香菜子の身体は強張る。
誰と話したのか。 なぜ連絡が遅れたのか。 なぜ男に送ってもらったのか。
どれだけ説明しても、正解にはたどり着けない。
それでも香菜子は、自分が悪いのだと思おうとしていた。
怒らせなければいい。 余計なことを言わなければいい。 もっと上手に振る舞えばいい。
そうすれば、きっと何も起こらない。
けれどある夜、香菜子はついに口にする。
「別れたほうがいいと思う」
その瞬間から、修司の態度は変わった。
香菜子の会社。 働いている店。 家族。 友人。 日々の生活。
彼は、香菜子が思っていた以上に、彼女の日常を知っていた。
そして告げられる。
「お前が俺のことを悪者にしたら、俺もそれなりに考えるからな」
別れれば終わると思っていた。
離れれば、自由になれると思っていた。
けれど香菜子を待っていたのは、別れではなく――新たな恐怖だった。
これは、一人の女性が「普通の生活」を取り戻すまでの物語。