あらすじ
卒業の夜会で、第一王子から婚約破棄と辺境への追放を言い渡された公爵令嬢リゼット。
その瞬間、前世の記憶がよみがえる。ここは前世で読んだ小説の世界で、自分は断罪されて退場する悪役令嬢だった。
顔を上げると、居並ぶ貴族たちの頭の上に、名前や年や身の上を記した文字が浮かんでいた。
自分の名前に、端から赤い線が引かれ始めている。一文字ずつ、消されていく。
咄嗟に、彼女は口を開いた。
「わたくしは、イーストエンド辺境伯にございます」
そんな爵位は、この国のどこにも無い。
けれど線は止まり、王子は追放と言ったその口で、東の統治を委ねると言い直した。
言った嘘が、過去に遡って本当になる。
この井戸は百年のあいだ一度も涸れたことがない、と言えば、井戸の縁に百年ぶんの苔が生える。
地図の東端、何も書かれていない真っ白な土地で、リゼットは嘘を一つずつ本当にして、領地を作り始める。
傍らには、林で拾った寡黙な剣士レイ。彼は生涯に七回しか、口をきくことができない。
ただし、嘘を一つ本当にするたび、世界のどこかに穴が開く。
穴は消えず、育つ。辻褄の合わないものを、世界は放っておかない。
そして村を豊かにすればするほど、要らなくなる人がいる。
帳簿の左の欄に、書き足した嘘。
中央に、開いた穴。
右の欄は、返し方。まだ空白のままだ。