あらすじ
二十四歳のとき、私は女優人生でいちばん大きな賞を手にした。
授賞式の壇上で、二年付き合っていた神崎征士郎からプロポーズされた。大勢の報道陣が見守るなか、私は差し出された指輪を受け取り、その日のうちに芸能活動を休止すると発表した。
翌日の記事は、どれも似たような見出しだった。
――人気絶頂の若手女優、愛のために引退。
それから十二年。
三十六歳になった私は、芸能プロダクションの社長となった夫と、夫婦密着リアリティーショー『さよなら、夫婦』に出演した。
番組の中で、私は何度も同じ言葉を口にした。
「離婚したいんです」
最初は演出を疑う声も多かった。
けれど、固定カメラが征士郎の冷たい態度や、私を見下すような言葉を次々と拾うにつれて、世間の見方は変わっていった。
収録最終日の夜。
ホテルの部屋にカメラはなかった。
征士郎は私の前に片膝をついている。煙草を最後まで吸い、私はその火を彼の掌に押しつけた。
征士郎は手を引かなかった。
頬を軽く叩く。
「カメラの前では上手だったわね。征士郎、あなた、私より役者に向いてるんじゃない?」
彼が顔を上げた。
番組の中では私を見るたびに苛立っていたその目に、今あるのは、息苦しいほどの執着だけだった。