あらすじ
2026年、51歳。
相良智紀は、衰退していく故郷を見ながら何度も思っていた。
――あの時、やり方を間違えなければ、この街はまだ生きていたんじゃないか。
次に目を覚ました時、智紀は2005年の自分――30歳の身体に戻っていた。
場所は兵庫県北部、但馬地方。
平成の大合併によって4つの町がまとまり、誕生したばかりの但馬市。
まだ商店街には灯りがあり、学校からは子供たちの声が聞こえ、閉店したはずの店も、廃止されたはずの路線も残っている。
智紀が知る未来では、この街はこれから急速に衰退していく。
人口流出。
赤字を抱える第三セクター。
重複した公共施設。
老朽化する市立病院。
維持できなくなる公共交通。
そして、自治体そのものを揺るがす深刻な財政危機。
「……まだ、間に合うかもしれないな」
市役所で働く親友・三田村浩平を通じて内情を探り始めた智紀は、やがて表向きの決算からは見えない、市の本当の財政状況を知る。
しかも、市役所の中には気づいている者がいた。
何年も前から危機を訴えながら、上層部と衝突して窓際へ追いやられた財政職員。
無駄な公共工事に反対し続け、出世から外れた土木技師。
現場を優先するあまり煙たがられている福祉職員。
何度改革案を出しても握り潰されてきた若手職員。
能力がないのではない。
この組織では、能力を使える場所がなかっただけだった。
そんな中、現職市長が次の市長選への不出馬を表明する。
財政危機が迫る但馬市。
次の市長になれば、巨額の赤字も、施設統廃合も、職員改革も、住民の怒りも、すべて背負わされる。
有力候補は次々と手を引いた。
そしてなぜか、最後に残ったのは相良智紀だった。
「僕は政治家になりたいわけじゃないんですがね」
それでも出馬した市長選は、対立候補なし。
2005年。
30歳、無投票当選。
全国最年少の市長が誕生した。
就任した智紀が最初にやったのは、派手な公約を掲げることではなかった。
市役所の隅に追いやられていた人間を集め、本当の数字を洗い直すことだった。
必要なのは英雄ではない。
数字を読み、現場を知り、仕事のできる人間だ。
だが、財政破綻を避けただけでは街は救えない。
医療、交通、教育、産業、観光、空き家、子育て、行政改革。
2026年まで生きた51歳の経験と、30歳の身体。
そして市役所の「はみ出し者」たちを率いて、相良智紀は故郷の未来を作り直していく。
誰も欲しがらなかった市長の椅子から始まる、
財政破綻寸前の地方都市を「日本一住みたい市」へ変える物語。
※本作に登場する「但馬市」は架空の自治体です。実在の自治体・人物・団体とは関係ありません。