あらすじ
瀬戸晴人、三十一歳。
約十年の修業を経て、ようやく念願だった自分のラーメン屋を開いた。
店はカウンター六席だけ。
大通りから一本入った小さな店。
そして迎えた開店初日――客は、誰も来なかった。
閉店間際になるまでは。
最後に暖簾をくぐった女へ、晴人は渾身の一杯を出す。
ダンジョンで自ら選んだ食材。
素材の状態を見抜く「鮮度眼」。
そして、調理した先の味を予測する「神の舌」。
女は黙って食べた。
スープを飲み干し、丼を置いて言った。
「もう一杯」
翌朝、晴人は妹の朱里から知らされる。
昨日の客――魔王ヴェルナだよ、と。
だからといって、店が繁盛するわけではない。
旨いだけでは店は続かない。
原価、仕込み、客数、回転、食材の確保。
経営に疎い晴人を、数字に強い妹・朱里が容赦なく現実へ引き戻す。
もっと旨い一杯を作るため、晴人はダンジョンへ食材を探しに行く。
素材が変われば、味を変える。
普通の素材しかなければ、技術で旨くする。
限られた食材なら、最高の五杯にする。
一人の客が二杯食べる。
その客がまた来る。
別の客を連れてくる。
やがて完売し、店の前に人が並び始める。
目指すのは魔王を倒すことでも、ダンジョンを攻略することでもない。
ただ――昨日より旨いラーメンを作ること。
これは、ラーメン馬鹿の料理人が一杯の「旨い」を積み重ね、
六席の小さな店から繁盛店へ駆け上がっていく物語。