あらすじ
明治の山あいに建つ監獄。死刑囚・景司は、貧困と母の病、弟を守りたいという思いから道を踏み外し、強盗の末に二人の人間の命を奪った。罪は疑いようもなく重く、景司自身もそれを否定しなかった。ただ、彼の胸には、母との記憶、弟への愛情、そして取り返しのつかない罪への悔恨が残っていた。看守の佐吉は当初、景司を「死刑囚」としてしか見なかった。しかし、雨の日の思い出、桜の話、弟から届いた手紙、日々の小さな会話を重ねるうち、一人の罪人の中にも、悲しみ、愛情、後悔を抱える人間がいることを知る。やがて刑の執行日が決まり、最後の朝が訪れる。景司は佐吉に「行ってきます。」と告げる。帰る場所のない男のその言葉に、佐吉は「ええとこ行けよ。」と答える。罪は消えない。だが、人間を人間として見つめた二人の時間も、消えることはなかった。