あらすじ
二十年前、世界各地にダンジョンが出現した。
魔物や魔石、そして特殊なスキルまで生まれた現代社会では、ダンジョン攻略者は花形職業の一つとなっている。
――そんな世界で暮らす、ごく普通の大学二年生・穹々坤人(そらぞら こんと)。
彼が持つスキルは、触れたものの温度を調節する【温度調節】《サーモバランサー》。
炎を出せるわけでも、怪力になれるわけでもない。
魔物と戦うことすらできない、地味なスキルだった。
かつてはダンジョン攻略者に憧れていた坤人も、早々に夢を諦め、今では生活費を稼ぐためにフードデリバリーの配達員をしている。
料理を冷まさず、ちょうどいい温度で届ける。
それが、坤人にできる唯一の仕事だった。
ところがある日、配達システムの不具合によって、本来なら表示されないはずの「ダンジョン案件」が坤人のもとへ届く。
報酬は、一件一万二千円。
金に釣られた坤人は、迷った末に人生初のダンジョン配達へ向かうことに。
ゴブリンからは逃げ、戦闘は極力避け、それでも注文のラーメンだけは冷まさない。
そうして「ちゃんと届ける」ことを優先して仕事を続けるうちに、坤人は少しずつ気づき始める。
自分の【温度調節】は、ただ料理を温めたり冷やしたりするだけの能力ではない。
普通の人間には触れることすらできない高温・低温の神器。
誰も扱えなかった、極端な温度を持つ魔道具。
そして、ダンジョンの奥深くに存在する、不可思議な熱の流れ。
なぜ、自分だけがそれらを扱えるのか。
なぜダンジョンには、これほどまでに異常な温度環境が存在するのか。
ただ飯を届けていただけの青年は、やがてダンジョンの秘密へと足を踏み入れていく。
そして最後に辿り着くのは――。
「温度調節しかできない」
そう思っていた青年だけが使える、誰にも扱えない神器。
これは、一人の平凡な大学生が、料理を届ける仕事を続けながら、自分の能力の本当の意味と、世界そのものの秘密に近づいていく物語。