あらすじ
旧車フェスのシャトルバスを担当していた時丘計一郎は、休憩中、展示されていた一台の赤いトヨタ・セラの前で足を止める。
MOMOのステアリング。
自分で取り付けたカセットデッキ。
そして、パネルに残る小さな傷。
それは偶然同じ車種だったのではない。
何十年も前、計一郎自身が乗っていた、あの車だった。
そこで出会った音楽ユニット・ZESTIASのSeraとLukaに、計一郎は若き日の思い出を語り始める。
恋人のため、一晩かけて作った九十分のカセットテープ。
片面は四十五分。
彼女の家までは、いつもの道で四十三分。
残ったのは、たった二分。
計一郎はその余白に、どうしても直接言えなかった言葉を吹き込んだ。
そしてドライブの夜。
その二分を彼女に聴かせるため、いつもなら曲がるはずの角を、彼は曲がらなかった――。
数十年後、その小さな遠回りの話を聞いたSeraとLukaは、一曲の歌を作る。
一方、父とZESTIASが話す姿を偶然目撃していた息子・蓮は、二人が何を話していたのか知らない。
やがて彼がラジオネーム「RAYN」で送った一通の便りから、父と母の知らなかった時間が音楽となって流れ始める。
九十分のテープ。
四十五分のB面。
家まで四十三分。
そして、余白の二分。
これは、カセットテープに残された不器用な言葉が、何十年もの時を越えて息子へ届くまでの物語。