あらすじ
「澄ちゃんは、果報者だ」
村の誰もが、笑顔でそう言う。
梅雨明けから、一滴の雨も降らない夏。
県の嘱託職員・水野湊は、5年後にダムの底へ沈む山村「澪村」へ、民俗調査にやってきた。
村人たちは親切だった。野菜を持たせ、車に乗せ、よそ者の湊を温かく迎えてくれる。
ただひとつ、池のほとりの神社に立つ黒板だけが、湊の目に焼きついた。
『日照り 15日』
『40日にて、嫁入り』
日照りが40日続いたら、神社の娘を「水神の花嫁」として、井戸の底へ下ろす。
そうすれば、雨が降る。
下ろされた花嫁は、二度と帰ってこない。
今年の花嫁は、宮司の娘・水上澄、19歳。
よく笑い、村の子どもに慕われ、自分の運命を「すごいことでしょう」と受け入れている少女だった。
古い台帳に並ぶ、歴代の花嫁たちの名前。
花嫁が逃げた年に、池で溺れた3人の子ども。
夜ごと井戸の底から聞こえてくる、女たちの歌声。
そして、干上がった池の泥に残る、小さな裸足の足跡。
かつて妹の手を離してしまった湊は、今度こそ、澄の手を離さないと決める。
けれど澄には、逃げられない理由があった。
黒板の数字は、毎朝ひとつずつ増えていく。
40日目の夜、白無垢の澄は井戸の前に立つ。
優しい村人たちと、雨を降らせない水神。
井戸の底で待っているのは、神か、それとも――。
因習の村で出会った、ひと夏の和風ホラー。
※全10話・完結まで毎日更新します。
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