あらすじ
LUMINA株式会社の株価がストップ安をつけ、時価総額が一日で数百億円吹き飛んだ日、水野真由は秘書を社長室へ呼んだ。
「直人は? こんなことになってるのに、CTOがどうして来てないの?」
秘書の表情がわずかに強張った。手元の資料を確認してから、真由を見返す。
「高瀬副社長でしたら、六週間前に正式に退任されています。その後、技術本部からも何名か退職者が出ています。関連書類は……水野社長にもご確認いただいています」
真由は答えなかった。
六週間前は、LUMINAの創立十周年記念パーティーだった。
その夜、ASTERの技術チームへ贈られる予定だった一千万円の特別報奨金を、真由は発表直前になって新規事業企画室へ回した。その少し前、忘年会の抽選で欲しがっていたドローンを外した小川悠斗は、見るからに落ち込んでいた。
理由を尋ねた直人に、真由は平然と言った。
「会社はもう、技術だけで伸びる段階じゃないの。悠斗たちが見てるのは、新しい市場とこれからのユーザーよ」
そう言って、余っていたスクラッチくじを一枚、彼の前へ滑らせた。
「直人にもあるじゃない。最高二百万円よ。当たれば、こっちのほうが面白いかも」
真由は笑いながら悠斗のネクタイを直した。
「新規事業のほう、これから期待してるから」
「はい、水野社長。頑張ります」
悠斗は一度言葉を切り、声を落とした。
「ありがとうございます、真由さん」
近くにいた何人かがこちらを見たものの、何も言わずに目を逸らした。
直人はグラスをテーブルへ戻した。
「真由」
振り向いた彼女に告げる。
「離婚しよう」