あらすじ
――偽装結婚×和風ロマンタジー×理系ヒロイン――
「今夜から、お前は俺の妻だ」
大学卒業を終え、五日後に研究機器メーカーへの入社を控えていた久世義亜乃。
運命という言葉を信用せず、情報を集め、条件を比較し、自分の人生を選んできた彼女は、近所の神社で鳴った三度の鈴に導かれ、見知らぬ和風の異世界――燿国へ転移してしまう。
身元も、戸籍も、帰る方法もない。
さらに、世界の境から漏れ出す黒い怪異〈濁り〉に追われる義亜乃。
そんな彼女を救ったのは、境界を研究する青年・常磐為澄だった。
異界人だと知られれば、義亜乃は官に拘束されるかもしれない。
彼女を守るために為澄が提示したのは、自分の妻として身分を偽ることだった。
求められる役割は、人前で妻を名乗ること。
衣食住は保証。
帰還方法が見つかれば離縁可能。
ほかに安全な選択肢がないと判断した義亜乃は、その偽装結婚を「暫定的に」受け入れる。
こうして始まった、夫婦生活。
けれど為澄は、義亜乃の荒唐無稽な話を笑わず、分からないことを分かったふりで片づけず、ともに記録を集め、仮説を立て、彼女を元の世界へ帰す方法を探してくれる。
だが、帰る道へ近づくほど、義亜乃には帰りたくない理由が増えていく。
それでも現代には、心配している両親と、自分で選んだ未来がある。
一方、為澄もまた、彼女を帰したいという願いの裏側に、口にできない思いを抱え始めていた。
これは、運命を信じない理系女子が、
観測し、考え、迷い抜いた末に、
たった一人の人を自分の意思で選ぶ物語。
合理性だけでは割り切れない、偽りの夫婦から始まる異世界和風ロマンタジー。
【登場人物】
◆久世義亜乃(くぜ・ぎあの)
大学で生命工学を学んだ、現代日本の理系女子。
物事を事実と仮説に分け、曖昧な断定を嫌う。冷静に見えて、感情がないわけではない。むしろ自分の気持ちまで分析しようとして、処理に困ることが多い。
◆常磐為澄(ときわ・いすみ)
燿国で世界の境を研究する〈境守〉。官営機関・陰陽技寮に勤める技官で、常磐家の若き当主。
穏やかで誠実だが、大切な者を守るためなら自分を勘定から外してしまうところがある。
義亜乃を守るため、偽装結婚を提案する。