あらすじ
四十二歳の専業主婦・日高智恵は、十五年間、家族のために生きてきた。
夫からは家事をして当然と思われ、十四歳の娘からは疎まれる。
誰にも必要とされず、「ありがとう」と言われることもない。
そんなある夜、智恵は匿名相談サイト「ココロの隙間」を見つける。
夫との関係に苦しむ見知らぬ女性へ、「ノエル」という名前で返信した智恵。
相談者自身も言葉にできなかった痛みを言い当てたその回答に、初めての「ありがとう」が届く。
家族の顔色を読み、波風を立てないよう生きてきた十五年間。
その経験は、ネットの世界では「人の本心を見抜く才能」だった。
やがてノエルは多くの支持を集め、“神カウンセラー”と呼ばれるようになる。
感謝。称賛。金。そして、自分の言葉を信じる人々。
「違っていたら、ごめんなさい」
かつてそう書いていた智恵の文章から、少しずつ迷いが消えていく。
――私には分かる。
――私の言葉なら、人を変えられる。
しかし、一人の相談者へ与えた「正解」が現実の人生を壊したとき、正体不明の人物からメッセージが届く。
その人物は、智恵の本名も、自宅も、そして娘が隠している秘密まで知っていた。
人を救う言葉と、人を支配する言葉の境界はどこにあるのか。
家族の中で透明になった一人の主婦が、「承認」という名のない毒に溺れていく現代心理サスペンス。