あらすじ
明治の麹町。江戸の面影を残す旧武家屋敷。そこに暮らす薬学の教授が、何者かに毒殺された。金品は無事、扉に破られた跡もなし。容疑は、おのずと屋敷に出入りする者たちへと絞られていく。
だが、誰ひとり、これといった動機を持たぬ。
現場に残された、清潔な地下の穴蔵。そして、ある男の記憶。飄々とした名探偵・西川忠太郎は、この小さな綻びから、一人の男の、完全犯罪への執念を暴いてゆく。
二十数年、何ものにも満たされることのなかった男が、初めて見出した「没頭」。それは、よりによって、人を殺めることであった――。