あらすじ
一生に一度だけ、自分の感情をひとつ消せる時代。
他人の悲しみまで自分のことのように抱え込み、幸せな時間でさえ「いつか終わる」と考えてしまう榊悠真は、二十歳の秋、「悲しみ」を消すことを決めた。
施術まで、あと三十日。
病院の待合室で出会った白瀬凪が消そうとしていたのは、誰もが手に入れたいはずの「幸福」だった。
「私を幸せにしてよ」
「もっと嫌だ」
「私も悠真を悲しませてあげるから」
どうせ失くすのなら、その前に使い切ってしまえばいい。
幸福を失う少女と、悲しみを失う少年。
二人は残された三十日間で、できるだけ幸せになることにした。
クレープを食べて、知らない駅で降りて、夜中にラーメンを食べて、くだらないことで笑う。
そうして悠真は少しずつ気づいていく。
悲しいのは、そこに幸福があったからなのではないか。
それでも三十日後、二人はそれぞれの感情を失う。
これは、失くしてから初めて、その感情の意味を知る物語。