あらすじ
進学。就職。住む場所。結婚。
人生の大きな選択のたびに、人々はAIの推薦を受け取る。
近未来のトーキョー。人生選択支援システム「MIRA」は、社会のインフラになっていた。
その予測は高精度で、実際に多くの人の暮らしを安定させてきた。
推薦に従う義務はない。違う道を選ぶこともできる。
ただ、推薦から外れれば、受けられる支援や制度の条件が少しずつ変わっていく。
自由はある。
けれど、その自由にはコストがある。
MIRAの推薦と本人の希望が食い違ったとき、その間に立つ部署「AXIA」。
そこで働くシンは、感情より先に事実を確かめ、違和感があれば普通の説明から一つずつ潰していく男だ。
ある日AXIAを訪れた女性は、MIRAが勧める安定した就職先ではなく、知り合いのいない遠い町の会社を選びたいと言う。
推薦が間違っているわけではない。彼女自身、これまでずっと第一推薦を選び、その結果に満足してきた。
それでも会話の中で、彼女は何度も同じ言葉を口にした。
「一度くらい」
本人もうまく説明できなかったその気持ちを、AXIAは言葉にしてMIRAへ届ける。
MIRAは、判断を更新する。
MIRAは人間の敵ではない。
驚くほど合理的で、柔軟で、役に立つ。
だからこそ、その夜シンが見つけた小さな矛盾は、どこにも収まらなかった。
かつての相棒、ユイ。
公式記録上の死因は、自殺。
死亡確認 14:32
最終監査開始 13:58
死亡が確認される三十四分前に、なぜ監査は始まっていたのか。
記録の誤りか。システムの特殊な処理か。
それとも、MIRAは何かを知っていたのか。
シンは、普通に考えられる可能性から調べ始める。
小さな時刻のずれを追ううちに見えてくるのは、推薦画面には表示されない評価の層。
そして、選ばれなかった「もう一つの選択肢」。
高い確率で正しい予測は、他人の人生にどこまで踏み込んでいいのか。
すべての事実を知れば、人は正しい答えを選べるのか。
これは、AIを倒す物語ではない。
AIに従う物語でもない。
正解を知ることのできない問題を、私たちはどう決め続けるのか。
その問いをめぐる、近未来SFミステリー。