あらすじ
かつて大陸全土を血で染めた数百年の戦乱を、たった一人で終わらせた男がいた。
──竜剣聖ガルド=ヴァレンシュタイン。
稀に見る剣才で、数多もの敵を斬ってきた英雄。だが、どれほど絶大な力を誇ろうと、人は時の残虐な刃から逃れることはできない。
かつて千の兵を絶叫へと突き落とした腕は老いに衰え、肉は腐り落ちる木々のように萎え、眼光は光を失った。引き裂かれた肉体の痛みに耐えながら、老兵は辺境の僻地で静かに己の死期を待つ──はずだった。
ある日、空を覆い尽くしたのは、五十年前の死闘で討ち漏らした災厄の神竜黒人竜・アースディア。
狂気に満ちた黒炎が村を包み込む中、老いたガルドは己の未来であり、唯一の光であった孫・ユウリを庇い、全身の肉を焼き落とされて壮絶な死を遂げる。
──だが、彼は死んでなどいなかった。
冷たい暗闇の底から引きずり戻されたガルドが目を開けた時、待っていたのは幼き孫の肉体。
庇ったはずの孫の肌、声変わり前の幼い声、そして……六十年分の惨劇と殺戮の記憶を刻み込んだ、熟成された魂の行き着いた肉体こそが孫の肉体だったのだ。
幼き肉体に宿ったのは、枯れ果てることのない老練なる執念。
もう一度、世界を知る為に彼は黒炎吹き荒れる絶望の世界で二度目の産声をあげた。
孫の魂を取り戻すため、奪われた全てを、この惨劇の世界から刈り取るために──。