あらすじ

「悲しすぎる物語は嫌いです」 本屋で偶然、同じ一冊に手を伸ばした男の人に、私はそう言った。 その本は、新美南吉の『ごんぎつね』。 彼にとっては、小学校の教科書で読んだ懐かしい物語だった。 けれど、私にとっては違う。 ずっと昔。 まだ日本に来る前、私は古い小さな図書館で、ほとんど読めない日本語を指で追いながら、その物語を何度も読んでいた。 ごんは、言えなかった。 自分が何をしたのか。 どうして償おうとしたのか。 「言えばよかったのに」 彼が何気なく口にしたその一言に、私は少し腹を立てた。 簡単に言うなあ。 知らないくせに。 言えないことはある。 言えば何かが変わってしまう気がして、黙るしかなかったこともある。 私にも、あった。 名前も知らない人と交わした、たった数分の会話。 それが、ずっと閉じていた私の昔を、少しずつ開いていく。 これは、悲しすぎる物語が嫌いだった私が、 もう一度『ごんぎつね』を読みながら、 自分の言葉を取り戻していく物語。

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カクヨム
カクヨム2026/10/02
  • 現在の作品『ごんぎつねとまめだぬき――二つの名前で生きてきた私が、あなたに本当の名前を話すまで』