あらすじ
八十歳の松徳昭三は、かつて四十年近く高校で国語を教えていた。
妻に先立たれ、現在は四人の娘のうち長女と二人で暮らしている。
穏やかな日々を送っていた昭三だったが、近頃、自分の記憶にわずかな違和感を覚えるようになった。
昨日の夕食が思い出せない。
よく知っているはずの人の名前が、ふと出てこない。
些細なことだ。
歳を取れば、誰にだってあることなのかもしれない。
それでも昭三は、自分の中から何かが少しずつ失われているような感覚を拭えずにいた。
そしてある日、過去の記憶を辿る中で、昭三は長い間忘れていた「あの出来事」に触れることになる。
記憶とは何なのか。
忘れることは、本当に救いなのか。
これは、一人の老人が自らの過去を追いながら、少しずつ「自分自身」を失っていく物語である。