あらすじ
「お前の仕事はただ海を見ているだけだろう」
満潮祭の夜、王太子ユリウスは潮読み伯爵家の令嬢リネット・シオレルに婚約破棄を告げた。隣に立つのは「祈れば潮は静まる」と微笑む男爵令嬢ミレーユ。嘲笑が広間を満たす中、リネットはただ深く一礼し、一点だけ確認する。
「では、来月の〈柱の詠唱〉は、ミレーユ様が?」
「当然だ」
——かしこまりました。承りましてございます。
彼女の前世は、海上保安庁の観測技官・佐倉汐里、三十二歳。台風の夜に高波にさらわれ、海洋国家アルテリアに転生して十七年。埠頭に十二基の潮位標を据え、毎日欠かさず海を「測って」きた。三百人の貴族が「棒を眺めているだけ」と笑うその数字は、祖母の代から続く三十年分の原簿となって、彼女の手の中にある。
そして原簿は告げている。来月の満月、二十九年半周期の魔潮が来ることを。
喚きません。泣きません。ただ、記録します。
口の悪い侍女セラ、埃をかぶった原簿を愛する父、そして首筋に銀の鱗を持つ笑わない提督とともに。専門職を侮った者たちが、自分の足元の海の高さを知る日まで——観測令嬢の、静かで正確な断罪が始まる。
数字は嘘をつかない。ただ、読める者にしか読めないだけ。
※ざまぁあり・ハッピーエンド・お仕事転生もの