あらすじ
「飛べない竜の世話係など、今日限りで解雇だ」
朝六時半、竜舎の床に叩きつけられた解雇通知。拾い上げたのは、竜舎掃除係リネ・ハウゼル——前世で十二年、航空整備士として点検記録一筋に生きた女でした。
三年間、一度も浮かなかった五歳の少年竜セルフィ。鱗は翠玉色を失い、体躯は同年代の半分。「出来損ない」と切り捨てられた彼は、それでも毎朝四時四十分、誰よりも早く助走場の空を見つめ続けていました。
それを記録していたのは、この世界でリネ一人だけ。
初飛行の儀まで、あと三日。解雇されたリネは、三年分・十一冊の記録簿を抱え、「氷の団長」ヴィクター・グレンの執務室の扉を叩きます。
「五歳竜セルフィの飛行不適格判定は、誤りです」
スキルは【精密点検】。素手で十秒触れた対象の状態を、数値と履歴として読み取るだけ。治癒も強化もできず、鑑定の儀では「雑用向き」と判定された、戦闘力皆無のハズレスキル。
「君は何ができる?」
「点検です。それだけです」
——わたくしは、あの子を飛ばせることはできません。でも、飛べない理由なら、三年かけて数えました。
与えられた期限は三日。数字と記録だけを武器に、元整備士の掃除係が、誰にも読まれなかった三年間を証明していく。
地味で、静かで、確かな逆転劇。飛べなかった少年竜と、飛ばし方を知らない点検官が、空へ出るまでの物語です。