あらすじ
午前三時。スマートフォンの画面に、一件のニュース通知が浮かんだ。
『榊原ホールディングス社長、幼なじみ女性と十回目の“結婚式”』
記事に添えられた写真では、榊原怜司が神崎汐里のベールを整えていた。二人ともカメラに向かって笑っていて、事情を知らなければ、本物の新郎新婦にしか見えない。
汐里が心身の不調を訴えるたび、怜司は「気分転換になるなら」と、彼女の望む形で小さなウェディングイベントを開いてきた。教会風、ガーデン、ホテルのチャペル――それが、これまでに九回。
そして今回で十回目だった。
三日前まで、怜司は私の婚約者だった。
私たちは八年間付き合ってきた。けれど、私との正式な結婚式だけは、そのたびに汐里の事情で延期になった。
三日前。
ようやく誓いの言葉までたどり着いたその日、手首に包帯を巻いた汐里が会場に現れた。
「怜司、私も一度でいいから、ウェディングドレスを着てみたい」
その一言で、すべてが変わった。
怜司は大勢の招待客とマスコミの前で私を突き飛ばし、ドレスの上に重ねていたオーバースカートとベールを乱暴に外すと、それを汐里にかけた。
そして、私の頬を平手で打った。
私は、汐里を抱きかかえて会場を出ていく怜司の背中を見送った。
彼が私に手を上げた、その瞬間。
半年前に交わした婚前契約は、ただの紙切れではなくなった。