あらすじ
2026年秋。岩手県葛巻町の山あいで、43歳の営業マン・高橋直人は、不意に湧いた霧に包まれる。
霧が晴れた先は、貞享4年――江戸時代の八戸藩領、小田村。
筵に隠して運ばれる「鉄五駄」と、それを差し押さえる村の男・市右衛門。
盛岡から来たと口にした直人は、藩境の村で疑いの目を向けられる。
現代に戻った直人は、八戸藩の日記に、あの日の出来事が記されているのを見つける。
未来を知った男は、ふたたび霧の中へ――。
けれど、記録には結果しか書かれていない。
そこで生きた人の寒さも、沈黙も、恐れも。
そして、あの日記の行間には、
「見馴レヌ者一人」という、ただ1行だけが残されていた。
古文書の数行と、そこに書かれなかった1日をめぐる、歴史タイムスリップ短編。
※本作は、八戸藩の記録に残る「小田村市右衛門による鉄五駄差押え」の記事に着想を得たフィクションです。